3年前のことが10年前のことに感じることってない?って話

記憶について。最近読んだ本に哲学者ベルクソン物質と記憶を長年読み親しんだ日本人学者のエッセイがある。

 

記憶は脳に蓄積されていると一般には考えられていることが多いが、そうではないらしい。身体を通して現在に反復可能なもの(慣れた道を通る道順など)は、ベルクソンは記憶とは呼んでいない。それは、外部からの感覚刺激(視覚など)に自動的に反応する行動である。それは脳の働きと言える。一般的には身体で覚える、という言葉に近い。

 

そのような感覚刺激に対する適応行動を超えたところにベルクソンは記憶を見出したらしい。それは放っておけば現在に現れたり現れなかったりするものだろうか。現在になんの関係もないのに、ふっと昔の記憶が過ぎることがある。そういう記憶だろうか。

 

このあいだ、私的な出来事をふっと思い出して3年しか経ってないのか、もっと経っているかと思ったことがある。一方で2年くらい前のことなのに、そんなに前か、ほんの最近のことかと思った出来事もあった。

 

なぜある出来事は実際より過去の出来事だと感じる一方で、別の出来事は実際より現在に近い出来事だと感じることがあるのか?少し考えてみたのだが、より確かな現実味を帯びた出来事の方が、現在から遡るとより現在に近いという感覚をもつのではないか。

 

例えば、私は2年前くらいに仕事を辞めて、2カ月それまで住んでいた地域から離れようとしなかった。特にそこにいなければならない理由などなかったが、今思うと、急に仕事を辞めて行き場がなくなったことに頭が付いていかなかったからだと思っている。そして2年前のことなのに、5年とかもっと前のことのような感じがしたのである。もっといえば、それよりもっと古い、学生時代の記憶と比較すると、学生時代より前のような感じがしたのだ。人生最初の挫折という現実からの逃避行動をしていた、人生でもっとも深く長く現実を生きていなかった2カ月間の記憶が、はるか遠くに感じる。