著者の茂木健一郎氏 ( 以下、茂木 ) は、<生きがい>を構成する要素として、二番目に「自分を解放する」ことを挙げている。
その論拠には、禅の無我の精神や、マインドフルネスの中心概念である<今ここ>というキーワードをおいてもいる。( これは<生きがい>の五番目の要素でもある )
読者への覚え書き <生きがいの五本柱>
<生きがい>には大事な五本柱がある。
- 柱1:小さく始める Start small
- 柱2:自分を解放する Releasing yourself
- 柱3:持続可能にするために調和する Harmony and sustainability
- 柱4:小さな喜びを持つ The joy of little things
- 柱5:<今ここ>にいる Being in the here and now
- 茂木健一郎『生きがい -世界が驚く日本人の幸せの秘訣-』( 新潮社・恩蔵絢子訳, Ken Mogi "THE LITTLE BOOK OF IKIGAI: THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE" )
たとえば子どもには、遊びそれじたいが生きがいという側面がある。遊んでいる子どもは、生きがいの感覚において、経済社会的な評価や自分の存在価値などとは無縁であり、あるいは子ども自身の存在をそうした社会的な意識の外においている。このような子どもの生きる態度から、逆説的に、社会的な存在である大人の世界では、自分に意識を向けてしまうとどうしても生きがいという感覚から遠ざかる、ということを言っている。換言して、子どもは無我の性質をよく表しているといえるかもしれない。
人生の意味という点において、人生哲学に日本人が貢献していることがあるとすると、無我の精神なのかもしれない。
神谷美恵子氏がその有名な著書『生きがいについて』で強調しているように、( 中略 ) のびのびと遊び回る子供は、ただ遊ぶことで得られる喜びこそが<生きがい>であって、真の仕事で、自分を社会的に定義するという重荷を背負わされていない。( 中略 ) これが、<生きがい>の二番目の柱「自分を解放する」ということなのだ。
- 茂木健一郎『生きがい -世界が驚く日本人の幸せの秘訣-』( 新潮社・恩蔵絢子訳, Ken Mogi "THE LITTLE BOOK OF IKIGAI: THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE" )
茂木はあくまで脳科学において生きがいの感覚を、クオリア ( 現象の質感 ) としてとらえ、清少納言の古典『枕草子』や、永平寺の禅の修行僧や、アメリカにおけるマインドフルネスという視点から、「生きがい」という日本人がもつ観念について本書で書いている。
そういったことに顕著に見える「<生きがい>の感覚」が茂木のいう「自分を解放する」という概念の軸となっている。
清少納言は、「枕草子」の中で、社会の中での自分の立ち位置について一度も言及することがなかった。彼女はまるで、今朝生まれたばかりであるかのようで、地上に今初めて落ちた雪にそっくりだ。彼女のように自分自身を忘れることは、禅の教義にもつながっていくのである。
- 茂木健一郎『生きがい -世界が驚く日本人の幸せの秘訣-』( 新潮社・恩蔵絢子訳, Ken Mogi "THE LITTLE BOOK OF IKIGAI: THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE" )
詳しくは言及されていないが、『枕草子』で清少納言が「社会の中での自分の立ち位置に言及していない」とは、枕草子が中宮定子に仕えた身である事とか、彼女の文学を作り上げる上で身につけた教養や背景を、その内容や文体にはほとんど『枕草子』であらわしていない、とも言えるかもしれない。
また、この「社会的な立ち位置にとらわれない」場は現代日本にもある。たとえば茂木は、永平寺で二十年にわたり修行を積んだ禅僧・南直哉 ( みなみじきさい ) の言を引いて、永平寺では社会的な存在定義がなんら<生きがい>の感覚にとって用を為さないというようなことを言っている。
禅僧の南直哉氏は、永平寺に二十年近く留まって暮らした経験を持つ数少ない人物だ(たいていの修行僧は数年間だけ資格を取るために留まる)。この南が次のように言っている。__永平寺の(より一般的には禅宗での)最も重要な決まりごとの一つは、能力主義をなくすことだ、と。外の世界では、人々は、何か価値あること、何か良いことをすれば、功績が認められ、信用が増していく。しかしながら永平寺の中では、立派な行為をしたからといって見返りはない。ひとたびそのシステムの中に入ってしまえば、何をしようと、どれほど熱心に瞑想をしようと、どれほど意識的に毎日の仕事に取り組もうと、何の変わりもない。誰でも、他の普通の修行僧と同じように扱われる。まるで匿名の存在、目に見えない人物となり、個性など何の意味もなさないものになる。
- 茂木健一郎『生きがい -世界が驚く日本人の幸せの秘訣-』( 新潮社・恩蔵絢子訳, Ken Mogi "THE LITTLE BOOK OF IKIGAI: THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE" )
当ブログでも、以前に 『「生の倦怠」と「死への欲求」は克服できるか』という記事において、南直哉の著作『死ぬ練習』を引いたことがある。そこで南は自分の存在、あるいは自己の苦しみのもとである自己それ自体を滅し ( = 禅における "放下" ) 、徹頭徹尾、他者の目的のために人生がある、というようなことを言っている。
やはり結局は、生きがいを、禅的な文脈でとらえると「自分」というものへの執着を手放すことがまず根幹にあるということになろうか。
なおも日本の宗教的な視点で茂木は論を進める。
日本人はどこから人生を続けていくエネルギーを見つけるのだろうか?
(中略) この国の立ち直る力については、宗教が根本的役割をずっと担ってきたのも確かだ。
地震、津波、噴火などの自然災害、戦災にまみれた日本の歴史に言及した上で、こうした日本人が経験してきた幾度もの復興の姿勢に見られるように、日本精神の根底には仏教や神道がその礎にあることを茂木は示唆している。
私は、自己の内的世界への道が、ひいては他者や外の世界にもつながる道たりえる、ということを禅やマインドフルネスに類するテーマの書籍かなにかで読んだ覚えがある。
私は三十をすぎて幾ばくという歳だが、街の見え方も変わってきた。たとえば、街のいたるところで行き交う群衆が風景の一部に感じることが時にある。その時、もはや自分と心のつながりのない、全くの他者の群れは、意味を失い、衣服や髪型、男性、女性という記号ですらない。そこにきて私個人のなかの内的世界は以前より深くなり、自分が内省的になったと感じている分、真に自分が求めているものは即物的な尺度をゆうに越えてしまった感がある。その先に、真につながり合う人や世界 ( あるいは精神世界) が存在していて、そういう個をこえた場でこそやはり茂木のいうような生きがいは感じられるものなのかもしれない。
私の街でのそういう体験と感覚は、自分と他者あるいは (精神) 世界という存在を一つにするものであり、日本人の無我的な精神として、<生きがい>の概念とつながっていくものなのかもしれない。無我や八百万の神というキーワードで表される日本人精神のいわば「集合的な」性質が日本人の生きがいと密接に関わっている。
そして生きがいは、人生の自由を求める者にとって、その第一歩目を踏み出すための道標のようなものである。他者を通してそこに自分を見るとき、同志とであい、道を共に進む。行き着く先に、死という光が待っている。死を目前に、私が生きた意味がはじめてそこで啓示される。そういうことを人生に求めていきたい。
(中略)日本の人生哲学に浸透しているマインドフルネスは、長い間善行に取り組んで自分を何段階にも克服していくという仏教の瞑想の伝統から影響を受けてきた。(中略)。
また、日本文化には儒教の教えの影響も大きい。(中略)禅という日本の伝統の中で強調される点、すなわち、自分が変わることによって、外の世界が変わるという概念は、そのようなさまざまな影響が集約されたものだ。
世界では、すべてがつながっていて、何一つとして孤立してはいないのである。
(中略)「八百万 (やおよろず) の神」という概念、つまり動物から植物まで、山々から小さな日用品に至るまで、自分たちを取り囲むものすべてに神がいるとするものの見方がその基調を作り出しているのである。
- 茂木健一郎『生きがい -世界が驚く日本人の幸せの秘訣-』( 新潮社・恩蔵絢子訳, Ken Mogi "THE LITTLE BOOK OF IKIGAI: THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE" )
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“飾らず、おごらず、欲を持たず、控え目さと調和を愛し、今ここにいるという小さな喜びを大切にする。日本人が古来守ってきた素朴な価値観が、世界で注目を集めている。
96歳で現役をつらぬく寿司職人、毎日午前2時に目覚めて仕事を始めるマグロの仲買人、下位のまま現役を続ける力士――。
寡黙な実践者たちの生き方に脳科学者が着目し、世界に向けて発信した画期的日本人論。『IKIGAI』改題。”
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“Japanese men's longevity ranks 4th in the world, while Japanese women's ranks 2nd. Perhaps this comes as no surprise when you know that the Japanese understanding of ikigai is embedded in daily life, careers, relationships, and hobbies.
Neuroscientist and bestselling Japanese writer Ken Mogi shares personal insight and scientific research to provide a colourful narrative of Japanese culture and history along the way.
He identifies five key pillars to ikigai:
- 1: Starting small
- 2: Releasing yourself
- 3: Harmony and sustainability
- 4: The joy of little things
- 5:Being in the here and now
Find fulfilment, joy and mindfulness in everything you do with the ikigai way.”